海と空の境界線

自分の創作やうごメモ、日常での出来事を書いていきます。

憧れの魚に出会えた話

 ご無沙汰しております。ふかうみです。ブログの更新は一昨年12月に棒人間バトルの新作を投稿して以来でしょうか。あの作品以降、目立った創作活動もできておらず、どんどん自分の影が薄くなっているような気がしてなりませんが、こればかりはどうしようもないでしょう。

 さて、いつの間にか2020年度の大学の講義も全て終わり、早くも春休みになってしまいました。今年度はオンライン授業三昧で楽しい学生生活とはいきませんでしたね。はっきり言って対面授業よりも時間にはかなりの余裕があるのですが、代わりに常に大量の課題に追われることになるため、心の余裕がほとんどありません。オンライン授業が悪いとは言いたくないですが、やっぱり個人的には大学に通って直接講義を受けたいなと感じました。実験なんかまともにできないですし。これ美大とかだともっとしんどそうですね…。そんな中、僕はストレス発散も兼ねて狂ったように採集に出かけていました。採集と言っても、一人で近所の海にタモ網を担いで魚を掬う、素潜りで死滅回遊魚を採るなど手段は色々あります。採った魚は採集日時や場所などの最低限の記録を取り(記録がないと学術的な価値がなくなってしまうため)、その後は飼育するか標本にするかのどちらかになります。僕は夏~秋は飼育目的での採集がメインで、冬~春は標本用の深海魚の採集を行っています。

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昨年10月に採集したゴマチョウチョウウオ(Chaetodon citrinellus )。爽やかな色合い。

 ところで皆さん。皆さんには何か憧れる人やもの、いつか見てみたい、手に入れたいと思っているような何かはあるでしょうか。人によって違うかと思いますが、何かしらあると思います。僕の場合はそのほとんどが深海魚の類で、幼少期に図鑑で見た魚はできる限り生鮮状態のもの、願わくば生きているものを自分で見つけ、観察、記録したいと思っています。前置きが長くなってしまいましたが、今回はその中でも一番見てみたかった魚の話になります。

 

 深海魚と聞いて多くの方がイメージするものってなんなんでしょうか?チョウチンアンコウの仲間やラブカ辺りが有名どころだと思っているのですが、僕は昔からリュウグウノツカイが真っ先に浮かぶタイプでした。そうです。リュウグウノツカイです。本種を含むアカマンボウ目(マンボウとは全く別のグループです)にはユキフリソデウオやテンガイハタなどの奇抜な魚種が複数存在しますが、リュウグウノツカイはその中でも飛び抜けた知名度と、最大全長10m以上という規格外のサイズに成長することで知られています。他にも細長く側扁した銀白色の体、そこに散りばめられる水色の線状の斑紋、そして発達した背鰭とオール状の突起を備えた腹鰭など、全てが一般的に想像される魚の姿とはかけ離れており、深海生物ブームを皮切りに世間一般にも広く認知されるようになりました。無論僕もこの形態に魅了され続け、いつか本物の生体を自分の目で見ようと採集を続けていました。

 ある日の深夜、相も変わらず水面を眺めていると、小指ほどの細長い魚の姿が見えました。最初はウナギギンポの幼魚かウツボのレプトケファルス幼生辺りかと思って見ていたのですが、近付いてくるに連れて形状に若干の違和感を覚えました。頭の先が二又に分かれて延びていたのです。二又に…?

え??????????????????

これに気付いた瞬間、寝ぼけていた脳が一気に覚醒しました。あのサイズで頭の先(背鰭の先頭付近)が二又に分かれるように延びる細長い幼魚は、僕が知っている限りカクレウオの仲間の稚魚かリュウグウノツカイのどちらかしかなかったためです。しかも、どちらも非常に珍しい魚。緊張と興奮で震える手を抑え、魚の下に丁寧に網を入れました。そして水から上げた瞬間、網の中で魚が銀白色に反射しました。


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リュウグウノツカイ(Regalecus glesne)

「                       」

声にならない声って本当に出るんですね。掬い上げた魚は、紛れもなくリュウグウノツカイの幼魚でした。周りに釣り人もいたので、極力叫ばないようにしていましたが、暫くは興奮と感動でクーラーボックスの中を泳ぐリュウグウノツカイを眺めながら「やった…やった…」なんて言いながら泣いていました。この魚を知って約17年、ようやくその姿を自分の目で見ることができました。本当に長かった…。

なんだかんだ20年半生きてきましたが、これほど嬉しかった日はないです。多分今後もこれ以上の日は来ないかもしれません。ヤバ、俺の人生終わったかもしれん。

動画:意外と力強く泳ぐんですね。音声は消してあります。

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この個体は記録を取り、現在標本となっています。将来的には博物館等に寄贈することになると思います。

 

 さて、なんだか長ったらしくなってしまいましたが、要するに憧れの魚を採集できて嬉しかったという報告でした。オチは何もありませんが、翌日にこのことを高校の恩師に話したら「努力の成果だね」と返されました。僕としては好きなことをやっていただけで、努力した覚えは微塵もないのですが、岸壁に通い続けることも捉えようによっては努力になるのかもしれません。